商品戦略の再構築(新製品開発戦略)前編

海外事業の教科書

前回、事業を立ち上げ後、市場浸透に一定の成功を収めると、競合の攻勢に直面する可能性について説明しました。今回は、その対応策について具体的に説明していきたいと思います。その第一弾として、アンゾフの成長ベクトル論を応用した新商品開発戦略の再構築についてお話します。

「既存市場」x「新製品」

競合は既存市場にいるのですから、まずは、その市場でどう戦うかを考える必要があります。既存市場に既存商品に落とし込む戦略をアンゾフは「市場浸透戦略」と定義しましたが、新規事業が立ち上げ当初は、「新市場」に自社のコアコンピタスを注ぎ込んだ「既存製品」を投入する「新市場開拓戦略」で顧客基盤の構築に全力を傾注することが基本となります。

そして、その戦略が功を奏し基盤が確立されてくると、その事業は「既存市場」x「既存製品」のマトリックスに入ってきます。「新市場開拓戦略」から「市場瀬浸透戦略」に変化していくということになります。その頃には、市場参入直後の新規性が薄れ、既存市場の競合から市場シェア奪還に向けた攻勢を受けるようになってきます。

その状況下で、事業立ち上げ当初のやり方に固執していれば、競合の攻勢に立ち行かなくなる可能性が高まるので、ピボットしていかなければなりません。その方法論の一つが、「既存市場」x「新製品」の「新商品開発戦略」となります。競合に勝てる、あるいは、直接的に戦わなくて済む(レッドオーシャン上の直接対決ではない)新製品を開発し市場投入するということです。

事業戦略論としては、市場浸透しやすい汎用品系は最初から扱わず、付加価値の高い(=利益率の高い)製品のみを事業立ち上げ時から投入する方法もあろうかと思います。その戦略は装置産業ではない製造業や卸売業等では可能かもしれません。

しかしながら、一定以上の規模を有する製造業では、工場を回す、即ち、早期に稼働率を上げて限界利益を少しでも多く稼ぎ、損益分岐点に達することが必須の投資回収方法であると考えられるため、利益率は高いが規模が出にくい(市場成熟度や規模、知名度の低さやブランド力の弱さのため、短期的に数量を大幅に伸ばすことが難しい)製品だけを販売する選択肢はとりづらいというのが実態かと思います。

ピボットは想定通り!?

組織を動かす(3)~販売計画と管理会計~」では、「市場浸透時には、価格弾力性のある(=競争力ある価格設定をすると売れやすい)汎用品(コモディティー)をメインに販売し、稼働率を押し上げ、限界利益を少しでも多く稼ぐ。稼働率が上がってきたら、市場浸透に時間がかかる付加価値品の比率を上げていく、というのが基本戦略」であると説明しました。

従って、競合の攻勢に対するピボットとは、事業立ち上げ当初から育ててきた付加価値品の比率を一気に高めていくフェーズ、あるいは、アイデアを温めてきた付加価値の高い新製品を開発し市場投入していくフェーズであと考えます。それはある意味、市場浸透を優先させた商品販売戦略を想定通りにピボットする、ということだと思います。

どうやって新製品を開発するのか?

新商品開発戦略の必要性はわかったが、それをどうやって開発するのでしょうか?

まずは、市場参入前の開発と、市場参入後の開発という点に着目します。

市場参入前はプレマーケティングという製品開発に寄与する準備期間がありましたが、マーケットを十分に理解した状況ではありませんでした。駆け出しの状況でなんとか開発していた状況かと思います。一方、市場参入後の開発では、マーケットを十分に学習した状態から開発をスタートできる大きなメリットがあります。かつ、既に築き始めた顧客基盤を活かして、顧客のニーズを反映させる、あるいは共同で開発することが可能になってきます。

従って、市場参入後は、より精度が高い(打率の高い)開発が実現できる可能性が高まるということだと思います。

まとめ

  • ボリュームゾーンで市場浸透を図ると、軌道に乗ってくるくらいのタイミングで競合の切り返しが始まる。
  • 競合の攻勢が始まってからが、本当の競争の始まり。競合が自社を脅威に感じてきたからこその切り返しと言える。
  • 競合の攻勢は、単に勝ち負けを決める事態ではなく、対応次第で、自社を強くするための機会になる。追い込まれることで、中々手を付けられなかった施策の実行でブレークスルーし、次の成長フェーズに駆け上がっていくきっかけになる。
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