前回は、販売計画、とりわけ収益計画を作成することが重要であることを説明しました。今回は、収益計画をどのように作成すればよいのか、深掘りしたいと思います。
全ての製品に損益分岐点を設定する
管理会計の最大とも言えるメリットは、一つ一つの製品に売価を付け、製造コストを紐付ければ、利益が計算でき、かつ、損益分岐点がわかることです。そして、その積み上げで全社ベースでの損益分岐点がわかるということです。事業立ち上げ時はとにかく損益分岐点に達することが重要ですから、この指標を使い、ベストミックスを組み立てることが達成に向けた早道であることは言うまでもありません。
販売単価ー変動費単価=限界利益単価
販売単価ー変動費単価ー製造固定費単価=限界利益ー製造固定費単価=貢献利益単価
単価とは文字通り、単位当たりの価格なので、例えば、属する業界がその製品をkg単位で扱っていたら、全て、”価格/kg”で管理します。これが管理会計の最小単位です。後はこれに数量を掛け合わせ、どの製品をどのくらいどの顧客に売るかを、営業マネージャーとの対話を通じ、割り振りながら販売計画を作成していきます。
製造固定費というのは、管理可能固定費、あるいは直接固定費とも言われ、本社の固定費を除く、工場の製造原価に関わる固定費(主に製造人件費、水道光熱費、減価償却費)を指します。通常、貢献利益まで扱う時は、この固定費を扱うことが多いように思います。
また、物流費については、会計基準によっては、販売費及び一般管理費に組み込まれますが、管理会計では、変動費として単価化し、モノを運んだら限界利益がマイナスになることがないようにします。納入条件が顧客指定場所持ち込み渡しであれば、その費用込みで(少なくても限界利益が)黒字になるかということを契約前に確認しておきましょう。
一方、製造固定費に代わり、以下のような別の固定費で管理することも可能です。
・減価償却費を除く製造固定費(減価償却が重い装置産業など、EBITDAの損益分岐点で管理する時に用いる)
・全ての固定費(本社経費等、間接固定費も含める。貢献利益の総和が営業利益になる)
尚、固定費の各製品への割り振り方は、単純に固定費を(予算の)全生産数量で割って単価を割り出し、各製品に配賦することで良いのですが、汎用品と付加価値品と製品ラインナップに階層があるのであれば、その階層に合わせて傾斜を付けても良いでしょう。
プロダクトミックスを戦略の中心に位置づける
繰り返しになりますが、収益率の高い製品をたくさん販売することがプロダクトミックスの基本ですが、需要あっての話です。付加価値品の製造販売だけで工場稼働率を100%に引き上げることができるのであれば、プロダクトをミックスする必要はなく、収益を最大化できるのでしょうが、現実はそう甘くはないでしょう。
市場浸透時には、価格弾力性のある(=競争力ある価格設定をすると売れやすい)汎用品(コモディティー)をメインに販売し、稼働率を押し上げ、限界利益を少しでも多く稼ぐ。稼働率が上がってきたら、市場浸透に時間がかかる付加価値品の比率を上げていく、というのが基本戦略だと思います。
但し、実務では、”コモディティー vs 付加価値品”という単純な図式ではなく、単なる価格勝負ではない汎用品のちょっと上クラスを狙い目として、コストを抑えながらも品質差異を生み出し、コモディティーのレンジの中での差別化を狙い数量の増加を目指す、といったきめ細かい商品戦略も考えられます。
また、同一工場の中で別ラインを設置し、用途が異なる高付加価値品を製造販売する戦略も考えられます。市場浸透に時間はかかるが、ある時点から主力商品に取って代わることを期待できるような収益性の高い別の製品群を工場建設段階から組み込んでおくといった戦略も考えられます。いわば二刀流戦略です。
こういった商品戦略は、事業性調査、プレマーケティング、工場立ち上げ時、事業が軌道に乗った後の安定期と、それぞれのフェーズに応じて、柔軟に変えていく必要があります。いわば、製造業のアジャイル商品開発・市場浸透法とも言えるでしょう。容易ではありませんが、それに対応できるフレキシブルな製造ラインをを最初からデザインしておく必要性はあるでしょう。
そのためには、商品企画・マーケティング、商品開発(R&D)、エンジニア、製造、購買、営業、財務経理(資金調達)が緊密に情報交換しながら、市場に受け入れられる商品設計を行い、計画通りに原料を調達し、設計通りの品質で生産し、顧客に着実に届けていかなければならず、どのパーツも欠かせない機能です。経営陣はそのハーモニーを生み出す指揮者です。
プロダクトミックスとは、収益を最大化するための商品の単なる組み合わせではなく、全組織を巻き込んだ事業戦略の根幹をなすもの、総力戦と考えて差支えないでしょう。プロダクトミックスを制するものは事業を制するといっても過言ではないと思います。
まとめ
- 管理会計の最大のメリットは、一つ一つの製品に売価を付け、製造コストを紐付ければ、一製品あたりの利益(限界利益と貢献利益)が計算でき、かつ、損益分岐点がわかること。
- 商品戦略は、事業性調査、プレマーケティング、工場立ち上げ時、事業が軌道に乗った後の安定期と、それぞれのフェーズに応じて、柔軟に変えていく必要がある。
- プロダクトミックスとは、収益を最大化するための商品の単なる組み合わせではなく、全組織を巻き込んだ事業戦略の根幹をなすもの、総力戦となる。