アンゾフの成長ベクトル論
今回はどういう新規事業が合弁に適しているかについて話をします。次の四象限は「アンゾフの成長ベクトル論」と呼ばれるものです。
縦軸が市場で既存と新規。横軸が製品で既存と新規。そのマトリクスで戦略を構築するフレームワークです。
市場浸透戦略
左上の市場浸透戦略は、「既存製品(サービス)x 既存市場」なので、合弁事業を必要とする領域とは言えないでしょう。自社で既に行っている事業領域だからです。他社の力を借りなくても自力でできる領域ということですね。
新製品開発戦略
一方、右上の新製品開発戦略は「新製品(サービス)x 既存市場」となり、市場としては自社が既に活動する領域だが、新しい製品やサービスを投入するという戦略なので、自社に新製品や新サービスを提供できるコアコンピタンスがあれば合弁は必要ありませんが、なければそれを提供できるパートナーを探す必要がでてきます。
ゆえに、この象限では合弁事業を実行するメリットがあると考えらます。但し、ここで言う新製品や新サービスは、既存製品のモデルチェンジや派生品ではなく、あくまで自社のコアコンピタンス(中核機能)では対応できないもの、ということになります。
新市場開拓戦略
左下の新市場開拓戦略は、「新市場 x 既存製品」となり、自社製品やサービスを新たな市場で展開する戦略となります。この戦略が多く採られるケースは、海外進出です。自社製品には自信があり日本国内では高く評価されマーケットも確立しているが、海外市場では知見がないという時、自社で海外進出をしようとしても、そのノウハウはなく、進出したい国の事情も詳しくはわかりません。
そのような場合、進出先でパートナーシップを組んでくれる相手がいれば、自社の弱み(海外未経験)を補強してくれる可能性が高まり、合弁事業という選択肢が高まります。
一方、進出先の企業にとっては、自国の市場で新たな製品を販売する、即ち「新製品(サービス) x 既存市場」となり、新製品開発戦略の一環として合弁事業を組成するメリットがでてきます。このように、双方の戦略が表裏一体となることで、合弁事業を組む正当性が両者にとって高まるということになります。
多角化戦略
最後に右下の多角化戦略ですが、「新市場 x 新製品(サービス)」となり、自社が提供できる製品・サービス、自社の経験ある市場のどちらでもない、ということになり、自社の強みを発揮しにくくなります。これまで、製品あるいは市場のどちらかに強みがあることが前提でしたので、どちらにも強みがない中での戦略となると、成功確率は一般的には下がります。この戦略が「飛び地」とも言われるゆえんです。
多角化戦略は、合弁事業に適しているとは言い難いですが、事業買収(M&A)を通じて、この戦略を採り、成功を収めている企業は沢山あります。一方、時々報道される「多額損失」や「大型減損」というものは、往々にして、多角化戦略に基づくM&Aの失敗にあるというのも事実だと思います。
今日のテーマは、新規開発手法としての合弁事業についてでした。アンゾフの成長ベクトル論を用いて、合弁事業を選択する意義・意味について学習しましたが、次回は、もう1つの新規開発手法についてお話します。それではお楽しみに。
まとめ
- 自社の強みを活かし、かつ、自社の弱みを補完してくれる事業パートナーと組むことが合弁事業の基本的な考え方。
- 合弁で進出したい事業領域を検討する上で便利なフレームワークが「アンゾフの成長ベクトル論」。
- 新製品開発戦略と新市場開拓戦略が合弁事業の基本的な対象領域。
- 自社にとっての新市場開発戦略と事業パートナーにとっての新製品開発戦略は対になっている。日系企業の海外進出で多いパターン。
- 逆パターン(自社が新製品開発戦略で事業パートナーが新市場戦略)は、日本市場で海外企業と合弁を組むケースで考えるとわかりやすい。