サプライチェーンマネージメント(1)~個別最適に陥るわな~

海外事業の教科書

組織を動かす(3)~販売計画と管理会計~」では、プロダクトミックスについて、商品企画・マーケティング、商品開発(R&D)、製造、購買、財務経理(資金調達)が緊密に情報交換しながら、市場に受け入れられる商品設計を行い、計画通りに原料を調達し、設計通りの品質で生産し、顧客に着実に届けていかなければならない。収益を最大化するための商品の単なる組み合わせではなく、全組織を巻き込んだ事業戦略の根幹をなすものと解説しました。

組織を動かす(4)~生産計画と購買計画~」では、販売計画を引き継ぎ生産計画・調達計画に落とし込む一連のプロセスは、各部署の成熟度が高まってくると、全体最適から個別最適に陥りやすくなるので、日常的に部署間の連携・調整を図っていく必要があると解説しました。

上記に関する運営管理全般のことをサプライチェーンマネージメントと言いますが、深掘りしていきたいと思います。

個別最適に陥るわな

各部署の成熟度が高まってくると、全体最適から個別最適に陥りやすくなるというのはどういうことでしょうか?各部署のメンバーがに日々一生懸命働き結果が少しずつ出てくると、全体最適と反対方向にいってしまうということは矛盾そのものです。このメカニズムについて説明します。

まずは以下の与件情報をご一読ください。

営業部

予算(期初目標)の達成に向けて、日々、販売増に勤しむ営業部。限界利益が最大化するよう、製品別・顧客別・担当者別に予算は細分化され、月次でモニタリングしている。

営業スタッフの奮闘により、数量は予算を達成。工場稼働率も高い数値で推移。一方、プロダクトミックスという観点で、限界利益率の低い汎用品系の数量比率が予算比増え、限界利益率の高い付加価値品の予算数量が未達という状態が恒常化している。

営業マネージャーは、付加価値品の未達を挽回すべく先頭に立ちスタッフに発破をかけるものの、高価格帯のため顧客獲得に時間を要していることから、競合との価格競争にさらされながらも汎用品で予算数量の帳尻合わせをしていることに課題感を持っている。

それでも、汎用品を売ることで、限界利益を積み上げることにはなるので、固定費がこれ以上増えない限り工場の生産能力限界まで売るべきだと考え、実際、損益分岐点を月次ベースで超えてきた。

事業立ち上げ当初は、そこまで目配せできず、とにかく売れるものから売っていったが、最近はプロダクトミックスを意識して売りにくい付加価値品の販売に力を入れているものの、まだ結果はでていない。こういう状態が半年近く続いている。

製造部

営業部が注文をたくさん取ってくれるので、工場稼働率は高い状態が続いている。工場のスタッフも大忙しだが、事業が安定軌道に入ってきたことに充実感を覚えている。

一方、生産計画通りに生産はできていないことが気がかりだ。営業が付加価値品の販売に苦戦し、汎用品に寄った販売になっているからだ。主力原料は比較的調達しやすい汎用品用なので、原料が足りなくなるということはないものの、付加価値品用の原料が余り始めていることが気になり始めている。

付加価値品用の原料が倉庫のスペースを相当食ってしまって、汎用品原料を保管するスペースがやや不足しているが、販売も好調なので原料消化も早いことから、スペース不足でもなんとかマネージできている。尚、原料はバルク(個別包装されていないむき出しの原料)なので、同一スペースに異なる原料を保管することはできない(混ざってしまうので)。

営業が予算時に提出してきた販売計画に基づき作成した生産計画をベースに、調達部に必要数量を通知することを基本としているが、最近は、付加価値品用原料に余剰感があり、汎用品原料が不足気味なので、前者を減らし後者を増やすよう依頼をかけ直した。

調達部

製造部から、付加価値品用の原料比率を下げ、汎用品用の原料の比率を上げるとの連絡を受けた。そうはいっても、既にサプライヤーには当初予算通りに発注しており、海外から2か月はかかる輸送期間を考慮すると、向こう3か月くらいのの数量修正は難しい。今、数量調整を試みても、これから発注するものの変更だから、実際に当地で調整できるのは3~4か月後くらいになるだろう。その時の販売状況がどうなっているかはわからないが、生産部の指示通りに発注をかけることにする。

状況整理

・営業は、プロダクトミックスまでは計画通りに販売できていないが、汎用品で帳尻を合わせ、数量目標は予算を達成していきている。実際、付加価値品には及ばないが汎用品の販売で限界利益の積み増しに貢献している。

・製造は、営業の直近の販売状況を鑑み、調達に当初予算に基づく調達計画の修正依頼をかけた。

・調達は、製造からの依頼を受け調達計画の修正に入ったが、輸入原料のリードタイムが長いため、その結果が出てくるのは3~4か月後であることが気にはなっているものの、そのマネージメントは自分達の職務権限では難しいと考えている。

上記のような状況で何が起こるのか、次回に解説していきます。

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