AIおじさんの逆襲|第8回:「使いこなす力」とは何か。ツールを追いかける疲弊からの脱却

木島直人は、講座の休憩時間に受講生と言葉を交わしていた。

「正直に言うと、最新のAI情報を追いかけるのに疲れてしまって」

三十代半ばの男性だった。IT企業で企画職に就いているという。AIへの関心は高く、YouTubeやSNSで情報収集を欠かさない。しかし、その表情にはどこか疲弊の色があった。

「毎週のように新しいツールが出てくるし、既存のツールもどんどんアップデートされる。覚えたと思ったら、また新機能が追加されて。結局、何も身についていない気がするんです」

木島は黙ってうなずいた。その感覚は、痛いほど分かる。

1. 情報の奔流の中で

AIを取り巻く情報環境は、この数年で激変した。

YouTubeを開けば、「最新AIツール徹底解説」「ChatGPT新機能の使い方」「このプロンプトで生産性10倍」といったサムネイルが並ぶ。SNSのタイムラインには、毎日のように新しいツールの紹介が流れてくる。どれも魅力的に見える。試してみたくなる。しかし、すべてを追いかける時間はない。

木島自身も、その奔流の中にいた。Gensparkを導入し、複数のAIモデルを使い分けるワークフローを確立した。しかし、それで終わりではない。新しいモデルがリリースされれば検証が必要だし、既存モデルのアップデートにも対応しなければならない。

ある時、木島はふと気づいた。自分は「追いかける側」に回っているのではないか、と。

2. 半分は正しく、半分は違う

最新ツールの情報を追いかけること。それ自体は、間違いではない。AIは日進月歩で進化している。昨日できなかったことが、今日はできるようになっている。その変化を知らなければ、活用の幅は狭まる。だから、情報収集は必要だ。これは「半分は正しい」。

しかし、「半分は違う」のではないか。木島はそう考え始めていた。

ツールの使い方を覚えることと、ツールを「使いこなす」ことは、同じではない。新機能を知っていることと、その機能を自分の業務で価値に変えられることは、別の話だ。

もし、ツールがアップデートされても揺るがない、より普遍的な「力」があるとしたら。その力を鍛えておけば、新しいツールが登場しても、本質的な対応力は失われないはずだ。

木島は、その「力」の正体を探り始めた。

3. 映画監督は何をしているのか

ある夜、木島は書斎で考えを巡らせていた。自分がGensparkで複数のAIを使い分けるとき、実際に何をしているのか。

プロンプトを入力し、出力を読み、評価し、別のモデルに切り替え、また出力を得る。その繰り返しの中で、最終的なアウトプットが形になっていく。

ふと、映画監督のことが頭に浮かんだ。

監督は、カメラを回さない。演技をするわけでもない。照明を当てるのも、音楽を作るのも、別の専門家の仕事だ。しかし、映画の質を決めるのは監督だ。全体のビジョンを持ち、各専門家に適切な指示を出し、素材を統合して一つの作品に仕上げる。その「ディレクション」こそが、監督の本質的な仕事だ。

自分がやっていることも、似ているのではないか。GeminiやChatGPTやClaudeは、それぞれが優れた「専門家」だ。しかし、彼らに何を問い、どの出力を採用し、どう組み合わせるか。その判断は、自分がしている。

自分は、AIの「監督」として機能しているのではないか。

4. ディレクションという視点

木島は、「ディレクション」という言葉を手がかりに、考えを深めた。

ディレクションとは、方向づけること。指揮すること。複数の要素を統合して、一つの成果に導くこと。

AIを使いこなすとは、AIを「操作」することではない。AIを「ディレクション」することだ。

どのAIに、どんな問いを投げるか。出力をどう評価するか。複数の出力をどう統合するか。その一連の判断が、成果物の質を左右する。

そして、このディレクション能力は、ツールに依存しない。ChatGPTがバージョンアップしても、新しいモデルが登場しても、ディレクションの本質は変わらない。問いを立て、評価し、統合する。その力があれば、どんなツールでも使いこなせる。

木島は、この能力を「AIディレクション力」と名づけた。

5. 追いかける側から、軸を持つ側へ

AIディレクション力という概念を得たことで、木島の視界は少し開けた。

最新ツールの情報を追いかけることは、依然として必要だ。しかし、それは「手段」であって「目的」ではない。目的は、AIを使って価値を生み出すことだ。そのためには、ツールの使い方を覚える以上に、ディレクション力を鍛えることが重要ではないか。

追いかける側から、軸を持つ側へ。

ツールは常に変わる。しかし、ディレクション力という軸があれば、変化に振り回されることなく、むしろ変化を活用できる。新しいツールが登場すれば、それを自分のディレクションの中に組み込めばいい。アップデートがあれば、その機能をどう活かすかを判断すればいい。

木島は、この考え方を講座で受講生に伝えてみることにした。

6. 講座での問いかけ

次の講座で、木島は受講生たちに問いかけた。

「皆さんは、AIの最新情報を追いかけることに、疲れを感じていませんか」

数人がうなずいた。先日の休憩時間に話した男性も、その中にいた。

「私も同じでした。毎週のように新しい情報が出てくる。追いかけても追いかけても、終わりがない。しかし、ある時気づいたんです。追いかけ方を間違えているのではないか、と」

木島は続けた。

「ツールの使い方を覚えることは大事です。しかし、それだけでは不十分です。ツールがアップデートされても変わらない、より普遍的な力がある。私はそれを『AIディレクション力』と呼んでいます」

受講生たちの表情が、少し変わった。興味と、わずかな安堵が混じっているように見えた。

「具体的にどんな力なのか。それは、次回以降で詳しくお話しします。今日お伝えしたいのは、最新ツールを追いかけることだけがAI活用ではない、ということです」

7. 手応えと次なる問い

講座の終了後、何人かの受講生が声をかけてきた。

「今日の話、すごく腑に落ちました。追いかけることに必死で、何のために追いかけているのか分からなくなっていたので」

「ディレクション力という考え方、もっと詳しく聞きたいです」

木島は静かにうなずいた。手応えがあった。

同時に、新たな問いも浮かんでいた。AIディレクション力とは、具体的に何で構成されているのか。どうすれば鍛えられるのか。言葉にしたものの、まだ輪郭がぼんやりしている。

木島は、自分の実践を改めて振り返り、その力を分解・言語化する必要性を感じていた。受講生に伝えるためにも、まず自分自身が明確に理解しなければならない。

帰りの電車の中で、木島はスマートフォンにメモを残した。

「AIディレクション力の構成要素。次回までに言語化する」

探求は、まだ始まったばかりだった。

※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、企業等とは一切関係ありません。

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💡 AI実装メモ ——「木島経営支援パートナーズ」の実践指針——

  • 「追いかける疲弊」の構造を認識する: 最新ツールの情報収集は必要だが、それ自体が目的化すると疲弊する。情報収集は「手段」であり、「目的」はAIを使って価値を生み出すこと。この区別を意識するだけで、学習の優先順位が変わる。
  • 「ディレクション」という視点を持つ: AIを「操作する」のではなく「ディレクションする」と捉え直す。どのAIに何を問い、出力をどう評価・統合するか。その判断力こそが、ツールに依存しない普遍的な能力となる。
  • 軸を持てば、変化は脅威ではなくなる: ディレクション力という軸があれば、新しいツールやアップデートは「脅威」ではなく「活用対象」になる。追いかける側から、選び取る側へ。その転換が、持続可能なAI活用の鍵となる。

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作者からのメッセージ

第8回では、多くの方が感じているであろう「最新情報を追いかける疲弊」を正面から取り上げました。AIの進化は速く、情報は日々溢れています。しかし、すべてを追いかける必要はありません。大切なのは、ツールがアップデートされても揺るがない「軸」を持つこと。木島が「AIディレクション力」と名づけたその力の正体は、次回以降で詳しく解き明かしていきます。

追いかける側から、軸を持つ側へ。その転換のヒントになれば幸いです。

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【みなと中小企業診断士事務所からのお知らせ】

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この記事を書いた人

中小企業診断士(東京都港区)
ストアカ「世界一やさしい決算書の読み方」「世界一やさしい経営のお勉強」講師
総合商社勤務30年
新規ビジネス、海外事業に強み
ベトナム、メキシコ、米国に駐在経験
営業支援会社、EC出店会社、スタートアップへの支援実績あり
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