AIおじさんの逆襲|第1回 賞味期限切れのゼネラリスト(プロローグ)

東京・港区。午後三時、大和産業本社ビルの十五階にある管理統括部は、静まり返っていた。空調の音だけが虚しく響くこのフロアは、社内では「凪(なぎ)」と呼ばれている。波風を立てず、ただ定年までの時間を消化する人間が集まる場所。

木島直人(50歳)は、無機質なデスクに向かい、青白いモニターを凝視していた。かつてベトナムの赤茶けた大地で、大規模なプロジェクトを動かしていた頃の熱量は、もう思い出せない。

画面に映っているのは、一通の社内通知。 「フューチャー・デザイン・プログラム(早期退職優遇制度)の実施について」

美しい名前をつけられた、事実上の「お引き取り願い」だ。 「木島さん、ちょっといいですか」

背後から声をかけてきたのは、佐藤課長(42歳)だった。かつて海外事業部で、木島がその右腕として鍛え上げた元部下だ。今や立場は逆転し、木島は佐藤が管轄するルーチンワークの担当者に甘んじている。

佐藤の顔には、柔らかな、しかしどこか冷淡な笑みが浮かんでいた。 「昨日の子会社管理レポートですが……。ここ、『検討中』という言葉が使われていますね。部長は『精査中』という言葉を好まれます。それから、表のフォントが標準フォーマットより一段だけ小さいようです。修正、お願いしますね」

木島は胸の奥が熱くなるのを感じた。かつて国家規模の交渉を担った男に、フォントの修正を命じる。それが今の自分に与えられた「価値」のすべてなのだ。

「……承知しました。すぐに直します」 「お願いしますね。木島さんのようなベテランにこんな作業を頼むのは心苦しいんですが……。まあ、今は他に急ぎの案件もないでしょうし」

佐藤はコーヒーを片手に、木島の背中を軽く叩いて去っていった。丁寧な敬語の端々に、隠しきれない軽蔑が混じっていた。

木島は黙ってキーボードを叩く。指先が微かに震えるのは、屈辱のせいか、それとも自分自身の無力感のせいか。 昨夜、スマホのニュース画面で目にした記事が、頭を離れない。

『大手製造業が相次いで早期退職を募集。主な対象は50代以上のゼネラリスト。年収を半減させても転職先が見つからず、シニア人材の市場価値の低さが露呈している』

(俺は、市場価値のない『高給取りの粗大ゴミ』なのか……)

かつての経験、語学力、経営の勘。そのすべてが、現在の日本では「賞味期限切れ」として廃棄されようとしている。 だが、その時。デスクに置かれた内線電話が鳴った。

「木島さん、部長が呼んでますよ」 女性社員が、面倒そうに告げる。

部長室の重いドアをノックすると、そこには、会社の「DX推進」を声高に叫ぶ若手の小村部長(45歳)が座っていた。

「木島さん、ベトナム時代に英語が堪能でしたよね。これ、広報から回ってきたんですが、一つお願いがありましてね」

デスクの上に放られたのは、テキサス州オースティンで開催される「SXSW 2025」の招待状だった。

「AIのカンファレンスです。若手を行かせたいんですが、みんな今のDX案件で手一杯でして。木島さんなら、視察という名目で一週間ほど空けられませんか?」

それは、どこかこちらを“距離を置いて扱う”ような提案だった。

期待されている実感はほとんどない。ただ、「当面は現場を外れる」という方向性だけが、静かに示された。木島は、黙ってそのチケットを手に取った。 組織の中で「余剰」と定義された男に、最後のチャンスが巡ってきたことを、この時の彼はまだ知る由もなかった。

(次回:第2回「オースティンの雷鳴。AIは、おじさんの味方か、敵か」)

※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、企業等とは一切関係ありません。


💡 AI実装メモ ——ミドルシニアが「逆襲」を始めるための心得——

  • 「組織の評価」と「個人の価値」を切り離す: 会社があなたを「余剰」と見なすのは、単に「古い組織構造」にあなたの経験が収まりきらなくなっただけ。AIを使えば、その溢れた経験を「個のプロジェクト」として再構築できる。
  • 情報のシャワーを浴びる: AI時代には、マニュアルを読むのではなく、最前線の動きを「体感」することが重要。まずは自分の領域(経理なら会計関連のAIなど)の最新情報を1日15分だけ追いかけることから始める。

作者からのメッセージ 第1回では、木島の停滞する日常と、物語を大きく動かす「SXSWへの切符」の入手までを描きました。組織の中では「丁寧な言葉遣い」という膜に包まれながらも、確実に居場所を奪われていくシニアのリアリティを表現しています。 次回は、テキサス・オースティンの熱狂の中で、木島がAIの真の姿を目撃し、「自分事」として覚醒するシーンを描きます。


【みなと中小企業診断士事務所からのお知らせ】

「知っている」を「武器にしている」へ。 本連載の木島のように、組織の論理で「停滞」を余儀なくされた経験を、AIというレバレッジで再定義し、新たな市場価値へと転換するための実践的な場をご用意しています。

1. 攻めの事業構築:【AI×デザイン思考】ビジネスアイデア革命

~2時間で「形になるビジネス案」3案と提案スライドを完成~ 組織の中で「微細なフォント修正」に時間を費やす必要はありません。あなたの長年の実務経験をAIに注ぎ込み、2時間で新たな事業の柱(副業・起業・新事業)を具現化します。

2. 攻めのキャリア構築:【AI×デザイン思考】自分の可能性を拡張するキャリアプランニング

~10年後の自分から届く「手紙」が、迷いを確信に変える~ 「早期退職」や「キャリアの賞味期限」という言葉に揺らぐ心を、AIとの深い対話で整理します。デザイン思考を応用し、組織の評価軸に縛られない「あなた自身のキャリアの正解」を2時間で見つけ出します。


法人向け:熟練人材の「知」を再起動する人的資本経営コンサルティング

木島のような「経験豊富な人材の未活用」は、企業にとって最大の損失です。みなと中小企業診断士事務所では、AIを触媒に、埋もれた経験を組織の武器に変える支援を行っています。

  • 潜在価値の再定義: 豊富な実務経験を持ちながら、現在の組織構造では真価を発揮しきれていない熟練層。彼らが持つ「商売の勘」や「現場知」をAIで構造化し、高付加価値な「戦略的ディレクター」へと役割をシフトさせます。
  • 知の継承と組織の活性化: 役割が固定化してしまった熟練層を、AI武装した強力なアドバイザーへ。組織全体のDXを待たず、現場を知り尽くしたベテランから変革を起こすための、実務的なAI実装を支援します。

初回30分無料『現状診断セッション』(法人限定) ベテラン人材の活性化や、組織全体の知の継承に悩む経営者様、または人事責任者様。AIを活用した「人材資産の再始動」の具体的なアプローチを、代表の佐々木と一緒に探りませんか。 ※本セッションは法人の経営者様、または経営層の方を対象としております。

▶ 法人向け:初回無料セッションのお申し込みはこちら

この記事を書いた人

中小企業診断士(東京都港区)
ストアカ「世界一やさしい決算書の読み方」「世界一やさしい経営のお勉強」講師
総合商社勤務30年
新規ビジネス、海外事業に強み
ベトナム、メキシコ、米国に駐在経験
営業支援会社、EC出店会社、スタートアップへの支援実績あり
経営のお悩みを解決します!

目次