木島は239のタスクをさらに抽象化する作業に入った。
教育・人材育成、専門コンサルティング、情報発信・出版、経営・財務管理。これらは木島個人の業務分野に過ぎない。他の人には他の分野がある。この分類のままでは、普遍性がない。
では、分野を超えて共通する「AI活用の領域」とは何か。
木島はここで、製造業における「モジュール化」を思い出した。モジュール化とは、製品を独立した部品単位に分割し、それらを共通化、組み合わせることで多様な製品を効率よく提供できる設計手法である。
製造業では、製品の仕様が顧客ごとに異なる場合がある。だが、その製品を構成する部品——モジュール——は標準化されている。モジュールの組み合わせを変えることで、多様なニーズに対応できる。テーラーメイドのように見えて、実は体系化された部品の集合体なのだ。
AIの活用も同じではないか。
個々のタスクは人によって異なる。だが、その背後にあるAI活用の「領域」は、ある程度パターン化できるはずだ。その領域をモジュールとして定義し、各モジュールのスキルを磨けば、どんなタスクにも応用が利く。
木島は239のタスクを、より大きな括りで再分類し始めた。
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分析の結果、三つのモジュールが浮かび上がった。
第一のモジュールは、業務効率化だ。
人間が一から行えば時間のかかる作業を、AIに任せる。スライドの作成、文書の構造化、メールの下書き、議事録の整理。木島の場合、音声で語った内容をAIが文字起こしし、構造化し、整った文章に仕上げる。かつてはゴーストライターが担っていた役割を、一人で完結できるようになった。「エージェント作業」といってもよいだろう。
このモジュールに該当するタスクは、全体の約50%を占めていた。
第二のモジュールは、アイデーションだ。
AIと一緒に考える。自分のモヤモヤした思考をAIに言葉にしてもらい、出てきた言葉に磨きをかける。デザイン思考のフレームワークをAIに学ばせ、「既存の要素の新しい組み合わせ」を大量に生成させる。人間が発想法を指揮し、AIが無数のパターンを提示する。
ジェームス・W・ヤングが言った「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせである」という定義。これをAIとの協働で実践する領域だ。
このモジュールは全体の約30%だった。
第三のモジュールは、データ分析だ。
経営指標の計算、財務モデリング、市場調査。木島はここで、AIの「合成データ」という特性を活用していた。
実際に1000人にアンケートを取るには膨大なコストがかかる。だがAIは、インターネット上の膨大な情報からペルソナを合成し、仮想的な調査対象を生成できる。もちろん高い精度は保証されない。だが、方向性を探る初期段階では、十分に有用だ。
一方で、財務分析のような精度が求められる領域では、AIの出力をそのまま信じるわけにはいかない。木島はここで、VBAコードという検証手段を見つけていた。AIに計算させた結果をExcelに落とし込み、関数式を人間が確認する。AIは計算を代行し、人間はロジックを検証する。この役割分担が、データ分析の信頼性を担保していた。
このモジュールは全体の約20%だった。
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業務効率化が50%、アイデーションが30%、データ分析が20%。
木島はこの三つのモジュールを眺めながら、確信を深めた。
受講者が抱えるタスクは千差万別だ。だが、この三つのモジュールのどれか、あるいはその組み合わせで、大半のニーズに対応できる。モジュールごとのスキルを磨けば、個別のタスクに振り回されることなく、AIを使いこなす力が身につく。
体系化の輪郭が、少しずつ見えてきた。
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※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、企業等とは一切関係ありません。
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💡 AI実装メモ ——「木島経営支援パートナーズ」の実践指針——
モジュール思考で汎用性を高める: 個別タスクに追われるのではなく、「これは業務効率化か、アイデーションか、データ分析か」と分類する習慣を持つ。すると、スキルの転用が利くようになる。
業務効率化は入り口として最適: AIを使い始めるなら、まず定型業務から。成功体験を積みやすく、効果も実感しやすい。
アイデーションではデザイン思考を活用する: 「既存の要素の新しい組み合わせ」というヤングの定義をAIに学ばせる。人間が発想法を指揮し、AIがパターンを量産する。
データ分析ではVBAコードで検証する: AIの計算結果をExcelに落とし込み、関数式を人間が確認する。この検証プロセスが、データ分析の信頼性を担保する。
合成データは「方向性」を探るツール: 1000人のアンケートは取れなくても、AIが合成したペルソナで初期仮説を立てられる。精度は保証されないが、出発点としては有用だ。
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作者からのメッセージ
第16回では、239タスクを「三つのモジュール」に抽象化する過程を描きました。
AIの活用事例は無数にあります。しかし、事例を追いかけるだけでは、スキルは身につきません。大切なのは、事例の背後にある「パターン」を見抜くことです。
業務効率化、アイデーション、データ分析。この三つのモジュールは、ホワイトカラーの仕事の大半をカバーします。モジュールごとのスキルを磨けば、どんなタスクにも応用が利く。それが木島の発見でした。
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