「ちょっと、頭がいっぱいですね。」那覇造園土木のアトツギ、前原さんが画面越しにそうおっしゃいました。今回は、DCF法などのファイナンス理論を投資計画に落とし込み、一つ一つ紐解いていくセッションだったからです。
前回まで、私たちはある設備投資が見合うのかを、AIとともに見極めてきました。将来戻ってくる資金を、時間の価値まで織り込んで評価する、ファイナンスの考え方です。この日は、その完成した試算を、前原さんご自身が一行ずつ読み解く時間に充てました。
なぜ、AIが算出してくれるのに、経営者が中身(計算ロジック)まで正確に理解する必要があるのか。答えは、AIの出した数字を鵜呑みにしないためです。そこで私は講師として、AIに数値を直接打ち込ませず、必ず計算式を組ませています。一つひとつの結果が、どの前提から導かれたのかを、後からたどれるようにするためです。そうして初めて、人の目で「この答えは妥当だ」と検証できます。
時には、直感と逆の結論に出会います。借り入れの多い会社のほうが、評価の上ではむしろ有利に出ることがある。経験則とは食い違う場面です。それでも、組み込んだ計算式を一段ずつたどれば、なぜそうなるのかを筋道立てて説明できます。理解を支えるのは、答えそのものではなく、そこへ至る道筋なのです。
この鍛錬には、明確な行き先があります。5年後、前原さんは会社を買う側に立っているかもしれません。沖縄の造園業界には、後継者難に直面したまま高齢化した経営者が少なくないと聞きます。地域のリーディングカンパニーを志す前原さんに、会社を引き取ってほしいという相談が舞い込む。そうした場面は、十分に起こり得ます。
そこで問われるのが、会社の価値をどう見極めるかです。今日学んだファイナンスは、まさにその交渉で用いる土台になります。「教えてもらえる方がいないと、できないなと思いました。」と前原さん。知識がなければ、適正な価格を判断するのは難しくなります。逆に備えがあれば、納得のいく条件で交渉をまとめつつ、地域の雇用を引き継ぐ役割をも果たせるかもしれません。
AIに委ねられる範囲が広がるほど、経営者にはむしろ、より高度な判断力が求められるようになります。問われるのは計算の速さではなく、その数字を引き受け、納得がいくまで咀嚼し、自らの言葉で語れるかどうかです。今日の手応えは、その力を養う確かな一歩でした。
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