前回のインタビューの日、私は「解剖図」と題した40枚の資料を前原さんの前に広げました。毎朝5時に届く投稿案が、どこで、どんな順番で作られているのか。SNS執筆エージェントの中身を、全部お見せしたのです。あの変化の裏側を、今回から3回に分けてこの連載でも開いていきます。1回目は、エージェントが従う「執筆ルール」の話。毎朝の6案の質を、土台で支えている部分です。
前原さんの夜の日課は、届いた6案への一言返信です。ある晩の返信は「エピソードが弱い」でした。翌朝の6案は、場面とその時の感情を主役にした構成へ変わっていました。Vol.36でお話しした、学びのループが回っています。ただし、ここには続きがあります。指摘がすぐ効くことと、恒久の執筆ルールとして残ることを、あえて分けているのです。
同じ趣旨の指摘が繰り返されると、エージェントは朝のメールで尋ねてきます。この指摘を、恒久のルールに昇格していいですか、と。前原さんが「OK」と1行返せば、初めてルールブックに書き込まれます。返事がなければ、勝手にはルール化しません。打診は3回まで。無視は承認とみなさない、と決めてあります。たとえば、思想的な話は投稿全体の2割まで、というルール。これも前原さんがOKを出したから成立しました。
なぜ、ここまで慎重にするのか。理由は2つあります。1つ目は、書き方の好みや判断が、変わっていくものだからです。前はOKだった表現に、今はノーと言うことはありませんか。私の問いへの答えは「ありますね」でした。毎日発信を続けていれば、当然のことです。AIが古いルールと新しいルールを両方抱え込むと、どちらに従うかが揺れ、「教えたのに直らない」が起きます。2つ目は、AIそのものの限界です。AIには、一度に読み込んで注意を払える量に上限があります。毎日のダメ出しをそのままルールに積み上げていくと、ルールブックが膨らみ、1つ1つのルールの効きが薄まっていく。そしてある朝、守られるべきルールが守られなくなるのです。Vol.40でお話しした「教えすぎると、忘れる」現象です。だからルールは足すのではなく、今の正解に上書きします。古いルールは日付をつけて記録へ移し、手元にはいつも、生きたルールだけを残す。総量を抑えることが、すべてのルールを効かせ続ける条件なのです。
教えるのも、OKを出すのも、外すのも、前原さん。週1回、いま生きているルールの一覧を眺めて整理するのも、この運用の一部です。AIは提案して、確認を取る係に徹します。「本当に細かい修正の連続になってくると思いますね」と前原さんはおっしゃいました。その細かさに応え続けられるよう、確認と上書きの段取りをあらかじめ裏へ組み込んでおく。そこが設計の仕事です。
文章を書くのはAIでも、どう書くかのルールを握っているのは本人。この線引きがあるから、投稿は本人らしさを失いません。AIに任せることと、任せきりにすることは違う。そう設計で示すのが、伴走する側の役目だと私は思っています。次回は、書き上がった原稿がどんな検品を通って毎朝届くのか。品質と安全の話です。
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