海外事業における採用活動

海外事業の教科書

前回まで、管理会計の導入によりプロダクトミックスを最適化することで収益最大化を図るプロセスと、その一環としての組織の動かし方について解説してきました。これより、その組織の構成要素、要であるヒトに着目し、深掘りしていきたいと思います。

採用とは

プレマーケティング(先行販売)後編」や「組織を動かす(1)~組織設計~」でも度々触れてきましたが、採用を定義づけするならば、ヒトという経営資源の獲得、ということになると思います。

設立した会社を会社たらしめるのはヒト」では、会社設立直後においての採用とは「会社という”ハコ”」に中身(ヒトとしての役割)を組み込んでいくプロセス」であると説明しました。

プロダクトミックスにより定量目標が定まり、その目標実現のため、採用増を図っていくことは、事業立ち上げ時は特に有効です。「プレマーケティング(先行販売)後編」で言及した「リファラル採用」も活用していきましょう。

採用活動の留意点

進出先によって状況は異なりますが、日本と異なり、”ジョブホッピング”が当たり前の国が多いように思います。ゆえに、日系企業では、日本的(長期的雇用関係)の感覚で採用し、十分過ぎる程の従業員教育を行い、育ってきた頃に「卒業」していくというシーンが多いのではないかと思います。こういった人材マーケットでは、どのようにして対応を図っていくべきなのでしょうか。

ジョブホッピング対策

数年で仕事を変えていく人材でも構わないという場合もあります。いわゆるプロジェクト型で、採用する側も長期的雇用関係を想定していないケースです。

また、ジョブホッピングをし続ける人材だからこそ優秀である可能性もあります。特に、転職の度にポストと報酬を上げていっているような人材です。しかしながら、こういった人材に巡り合うことは稀ですし、それだけのキャリアを積み重ねてきた人材は、むしろ経営層として迎え入れるタイプとも言えそうです。

営業要員を探している時に、1~2年毎に転職し、ポストも報酬も上がっていないような人材を紹介された場合は、長続きしない可能性があるでしょう。

一方、ジョブホッピングが当たり前の労働市場で、同じ会社でずっとやってきたという人材もたまにいます。こういった人材は、経験上、良いケースとそうでないケースに分かれる気がします。

良いケースで言うならば、前の会社で能力が評価され、本人も勤め先に満足し、結果1社でずっとやってきたが、信頼していた上司が退職したり、勤め先が買収されて社風が変わってしまい、転職を決意したというようなケースです。

そうでないケースとは、周囲が一定年数で会社を変えていくのに、自信や柔軟性が乏しかったり、居心地が良すぎて職場を変えなかったようなケースです。上昇志向に乏しい可能性もあり、事業を立ち上げた会社の中では、周囲についていけず浮いてしまうかもしれません。(もちろん、様々なケースがありますのでこれにあらずです。)

採用に王道なし!?

つまるところ、採用に王道はないと考えています。結局は、双方の相性みたいなものがあり、こうすれば、確実に良い人材に巡り合える方法とか定着率を高めることができるという王道のようなものはないのではないでしょうか。

一つの対策として、報酬金額を引き上げるというのがあります。採用時には前職の給与よりアップした条件を提示します。中には「給与が上がらなくてもかまいません」という人がたまにいますが、むしろ、何か特別な事情でもあるのだろうかとこちらが気になってしまうので、プライバシーに細心の注意を払いながら本人の本音を引き出して、適切な条件を提示しましょう。

前職より報酬を上げることを前提にするとしても、過度に引き上げたり、同じレイヤーの従業員間で、差を大きく付けるようなことは、なるべく避けた方が良いかもしれません。また、自社の平均的な報酬額とかけ離れて高い報酬を払ってスター的人材を獲得するということも、熟考の上、判断すべきでしょう。

なぜでしょうか?国や労働市場によって異なるとは思いますが、従業員間で報酬についての情報交換を始めてしまうからです。要するに誰がいくらもらっているか筒抜けになってしまうということです。そうすると、仮に実力が伴っていないのに高い報酬をもらっている人がいたとして、それが知れ渡ると、嫉妬や妬みのようなものが蔓延してしまい、まず本人がストレスを抱えることになり、組織の雰囲気・チームワークが悪化してしまう恐れがあるからです。

採用活動はヒトというデリケートなテーマであり、試行錯誤しながらPDCAを回して(高速回転すれば良いというものでもない)、独自の最善策を生み出していくしかないと考えます。

まとめ

  • ジョブホッピングが当たり前の国での採用活動は容易ではなく、「ヒト」というデリケートなテーマでもあり、試行錯誤しながらPDCAを回して、独自の最善策を生み出していく。
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